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結果を出す16の秘訣 使える!イチローのメンタルマネジメント 第1章-1

WBCは北京オリンピックのリベンジの場ではない

 

この言葉は、北京オリンピックで惨敗した星野監督のWBC監督に就任にクレームをつけたものとする印象を持たれた方も多いことでしょう。マスコミの論調もそうしたものが多かったようです。

しかし、目的指向型心理学的に解説すると、彼の意図はそういうものではないことが分かります。

それは、イチロー選手の意図は否定的表現は人を支配するという理由からなのです。

「リベンジ」とは復讐の意味。つまり「リベンジ」と言ったとき、選手は北京オリンピックの敗戦を意識せざるを得ない。「リベンジ!」「リベンジ!」と繰り返せば、心の中にはキューバ戦、韓国戦、アメリカ戦などの敗戦のイメージが知らず知らずのうちに蓄積されていきます。敗戦のイメージしか湧いてこなくなったら勝てるわけがない。

彼は、その危険性を訴えているのです。決して個人批判ではありません。もう少し分かりやすく御説明しましょう。こんな言葉も彼は残しています。

「もし、そう思わないようにしているのだったら、そう思ってしまっているということ」

2004年8月、200本安打にあと1本となった時、「そのことを意識するのか」という質問に対する答えです。彼の言葉はアメリカでは禅を思わせると表現されることが多いようですが、この言葉はまさにそんな感じですね。

「『思わないようにしている』のに、それは『思っている』ことだって?」

「この前失敗したから、今度こそは失敗しないようにしようと思うのは、失敗すると思っているんだと言うの? そんなことないよ。私は絶対失敗しないように思っているんだから。もう二度と課長から叱られたくないんだからね」のように感じる人が多いことでしょう。

彼の言葉をもう少し分かりやすく書くとこうなります。「あと一本だと思わないようにするというのなら、それはあと一本だと思ってしまっている。そういうことなのですよ」。

つまり、あと一本だと思っても、思わないようにしようと思っても、それはどちらも「あと一本だ」ということについて意識しているのだ。彼はそう言っているのです。

考えてみれば、確かにその通り。

では、こういう時、彼はどのような思考をしているのでしょう。別の機会にプレッシャーのかかる感じを「たまらない」「最高」と表現しています。

8月26日のゲームでも彼はきっとあと一本を意識し、醍醐味を楽しんでいたのでしょう。

例えば、あなたは子どもの頃、小さな川や池に板を橋のように架けて、渡ったことはありませんか。そして落ちたことは?

私のクライアントの山西さんは見事に水の中に落ちた経験の持ち主です。

そして数日後、友達と同じように遊んでいて、また、その板の橋を渡ることになりました。山西さんは思いました。

「今度は絶対に落ちないぞ。注意して渡ろう。あんな恥ずかしい思いは二度としたくない」

ゆっくりと板の上に足を進めました。一歩目は大丈夫。何も問題はありません。再度自分に言い聞かせました。

「真ん中を歩けば落ちない」

二歩目、少し真ん中からそれました。ドキドキ……。

「いけない、右に寄ってしまった。右に行ってはいけない」

そう思っているのに、そして左に足を向けているつもりなのに、三歩めはまた少し右に行ってしまったのです。もっとドキドキが激しくなりました。友達が叫びます。「危ない! また、落ちちゃうよ」

自分でも分かっているのです。このままじゃ、また落ちてしまう。友達の心配が手に取るように伝わってきて、それがまた足を右に向けるのです。左に向けようと思っているのに!

「あ、ああ、まただ!」

そう思った瞬間、見事にまた落ちてしまいました。今から思えば笑い話ですが、その時は大ショック。

「あんなに注意して、慎重に渡ったのに、どうして落ちてしまったんだろう」

冷たいことなんか二の次です。何よりも恥ずかしくて、泣きたくなったことを覚えているそうです。家に帰って「どうしてなんだろう」と考えるたびに思い浮かぶのは落ちるシーンばかり。

それも有り難くないことにスローモーションで。嫌というほどに鮮明に。足の感覚まで蘇ってくるのですから、もうお手上げ。

イチロー選手の言葉の意味、どういうことか、何となく分かってきましたね。

山西さん、話しながらも、またあのシーンを思い出してしまうそうです。

 

自分らしく生きるためのフォーナインの法則

■肯定的表現を使えば可能性が広がる■

天才催眠療法家として知られるミルトン・H・エリクソンは生まれつき色覚障害で、小児麻痺に罹り、足が不自由でした。しかし、赤ん坊がはいはいから歩き始めるまでの動きを観察し、その過程を自分のトレーニングに取り入れて、歩けるようになったという人物です。驚くような発想ですが、考えてみれば理にかなっています。赤ん坊が歩く前にはいはいをするのは、歩くためのトレーニングをしていると考えても不思議はありませんから。後に彼は精神科医となり天才催眠療法家として目覚ましい治療効果を上げました。他では治療効果の上がらなかった患者にも、極めて短期間で目覚ましい効果を上げたのだそうです。彼の催眠はこれまでのものとは全く違っていました。目の前で振り子をぶらぶらさせたりなんてことはしません。言葉の使い方で、患者は一瞬にして催眠状態に入ってしまうというです。

その彼の治療をもとに作られたのがミルトン・モデルで、そこには「否定命令」という考え方があります。これをご説明しましょう。

それは、私たちが何かを見たり、聞いたり、感じたりしたときに「否定」は存在しないという考え方です。

えっ、「否定」は存在しない? 分かりにくいですよね。

例を挙げましょう。

公園で空を見て、鳥の声を聞いて、風を感じるときには体験だけがあります。そこに言葉が加わることによって「否定」が存在する。例えば、「空を思い浮かべないでください」「鳥の声を思い浮かべないでください」「風が吹き抜けるのを思い浮かべないでください」と言われたとき、まず、空を思い浮かべてから、否定するという作業に入るのだというのです。

そう言われれば確かにそうです。思い浮かべなければ、否定できません。

やめたいと思ってもなかなかやめられないのが、甘いものに煙草。

あなたが一大決心をして、「ダイエットのために甘い物断ち!」「今日から煙草をやめるぞ!」と宣言します。しかし、これが難しい。

「ケーキは食べない」と決心して街を歩く。でも、どういうわけかスイーツ・ショップばかりが目につきます。『何ておいしそうなのかしら』とつい思ってしまう。いけないと思い、『ダイエット、ダイエット』と戒めるが、頭の中にはフルーツたっぷりのケーキが次から次へと浮かんでくる。頭に浮かんだイメージの上にお情け程度にバッテンマークを付けても効果はありません。何しろ否定するために、まず頭の中にケーキを思い浮かべているのですから。

禁煙はどうでしょう。「禁煙なんか簡単だ。俺はもう何回も禁煙している」なんて笑い話もあるくらいです。

なぜでしょう。もちろん、ニコチンが切れる禁断症状が苦しいということはあるでしょう。でも、もう一つ、隠されているものがあります。それは「煙草をやめるぞ!」という言葉です。煙草をやめるということは、まず煙草を吸うというシーンを思い浮かべなければならないから難しいのです。知人の田島さんはこれまでに何回も禁煙を試みたのですが成功しなかった。ところが、ある本を集中して読みたいと思った時のことです。読んでいる最中に、タバコを吸うという動作をするたびに意識が本ではなくタバコに向いてしまう。タバコを吸う時間が無駄だと感じたし、意識がタバコに向かうことが嫌だった。そこで「本を集中して読みたい」と強く思うことによって、これまで三〇年以上も吸ってきたタバコをやめることができた。タバコをやめたいとは思わなかったのに、です。彼女は「人間って不思議」と言っていました。

禁煙中の旦那さんに奥さんが「今日も煙草を吸っていないの? 偉いわねえ」と言う。奥さんは「褒めてあげよう、そして煙草をやめてもらおう、それが愛する旦那様の健康のため」と思ってのことなのですが、その一言によって、彼はまた煙草を吸うことを思い浮かべなければならなくなる。だから、苦しい。頭の中に常に煙草のイメージがあったら、誰だってやめられるはずはないでしょう。これは先ほどの山西さんの場合だと、友人の「危ない、また落ちちゃうよ」という言葉と同じ意味をもつのです。

山西さんが橋から落ちた理由も、これで説明がつきますね。「橋から落ちるシーン」をイメージをして、それを打ち消そうとするけれども、落ちるイメージしか湧いてこない。

だから落ちるのです。

イチロー選手の、「もし、そう思わないようにしているというなら、そう思ってしまっているということ」という言葉を知っていれば、山西さんは「きちんと渡りきった」ことでしょうね。

打率についてもイチロー選手はこう考えています。

「打率に目を向けると、打席から逃げ出したくなることが必ず出てくる」

それは恐怖に繋がる。4割の打率だとしても10回のうち6回は凡退していることになりますから、当然、失敗する確率のほうが高いのです。その辺の思考の違いは、グラウンドに立つ上での気持ちに影響を与えるであろうことは、容易に想像できます。

そして、こう考えるといいという答えを教えてくれています。

それは「ヒットを増やしたいと考えれば打席に立ちたい」というのです。そう思っていれば打席に立つのが楽しみになると。

     *   *   *

職場で次のように言うことがありますね。

「大事なお客様だから失礼のないように」

「この仕事は大事だから、失敗しないように!」

これまでの例を考えると、これはまず、失敗することをイメージさせて、それを打ち消すように仕向けていることになります。つまり、まず、失礼や失敗のイメージが作られてしまう。これでは失敗しろと言っているようなものです。私も同じような言葉を言われた記憶があります。そして言われた瞬間に緊張してしまったことも覚えています。

「そうか、失敗は絶対に許されないんだ」

そう思うとドキドキしてしまって、とても平常心にはなれません。些細なことをやっている時でも、『失敗しないように、慎重に』と言い聞かせている自分がいました。

頭の中にあるのは失敗せずに仕事を仕上げることだけ。そこにプラスαして素晴らしいものに仕上げようなどと考えもしません。最低限をクリアすることだけ。そこからは何も新たな飛躍は生まれてこないのです。

では、どのように言えばいいのでしょう。

「大事なお客様だから最高のもてなしをしてくれ」

こう言われると、自分の持てる能力をフルに発揮しようと思えるし、最高のもてなしをしている自分がイメージできます。

「この仕事は大事だから、みんなで成功させよう!」

こう言うと、成功して笑顔で乾杯しているシーンが浮かんできませんか。そうなれば気持ちの盛り上がりが違います。成功に向かって、一気に進めるのです。もちろん「こうしたら、どうでしょう」「こんなことを思いついたのですが」という積極的な発想が生まれてくる可能性も大きくなります。こうした環境の中からプラスαが生まれるのです。否定的な表現がよくないというのではありません。使い方が重要なのです。普段、何気なく使っている言葉ですが、その影響力は計り知れないほど大きいのですね。

「やるな」と言われるとやりたくなる。

よく、こう言いますよね。皆さんなら、その理由はもうお分かりのはずです。

そう、その通り。

「やるな」と言われると、やってはいけないことを思い浮かべてしまう。だからやりたくなるのです。

ポイントは肯定的なイメージを作ること。

否定的ではなく、肯定的な表現を使うことによって、心だけでなく体も良い影響を受けるのです。

さて……、あなたの会社ではどんな言葉を使っていますか?

■宮里藍選手、復活の鍵を握るメンタル

プロゴルファーの宮里藍選手はインタビューに応える時、いつも肯定的な表現を使っていますね。彼女はイチロー選手のこの言葉の意味をよく理解しているのでしょう。

私はイチロー選手と同様に宮里選手の言葉にも常に注目しています。イチロー選手的なものを感じてならないのです。

しかし、彼女は2007年から大きな壁にぶつかることとなりました。あんなに前向きだった彼女の気持ちが揺らいでいました。「もうゴルフはやめなければならないのではないか?」とまで思ったそうです。でも、イチロー選手のように、さらに考え方のバリエーションを加えれば、今の状況から抜け出し、一段と成長した姿を見せてくれるに違いない。私はそう確信し、応援していました。

2008年5月18日、サイベースクラシックで47位に終わった彼女は、「スイングもフィーリングもいい。あとは気持ちとの兼ね合い」と語っています。気持ちの重要性をよく認識しているのです。

「勝つ用意はできている」

こんな言葉も残すところまで復調してきていました。

そして2009年、エビアン・マスターズでついに念願のアメリカツアー初優勝を果たしたのです。涙を帽子で隠し喜びを噛みしめる姿に、私も熱いものが胸に込み上げてきました。しかし、その二週前の全米プロ選手権二日目に、彼女の勝利が近いことを予感させる言葉がありました。自分のミスを振り返り、こう言ったのです。

「自分に期待しすぎて、ミスをした時に自分を抑えられなかった」

あまりの怒りの大きさに、キャディとも言葉を交わすことができないほどだったそうです。しかし、それはミスに対する意識の持ち方を彼女が理解した瞬間でもあったとも言えるでしょう。この言葉を聞いたとき、私は「勝利」を予感しました。ゴルフの調子は良い。後は気持ちだけという状態が続いていて、そして、気持ちのマネジメントにも気づいた。

「気持ちのコントロールが今の最大の課題」

正に勝利の準備は整っていたのです。

■石川遼選手の言葉にみる成長

ゴルフといえば話題のハニカミ王子こと、石川遼選手。二〇〇八年五月一六日、日本のメジャー初挑戦となった日本プロゴルフ選手権でのこと。残念ながら予選落ちとなった後のインタビューでこう答えています。ディフェンディング・チャンピオンとして出場するマンシングウェアオープンKBSカップへの抱負を聞かれた時の言葉です。

「早いなあと思います。去年の自分に勝つことは難しいと思いますが、負けないようなゴルフをしたいですね」

この言葉の問題点も、もう皆さんならお分かりでしょう。

そう、一見前向きに聞こえますが、実は全てが否定の言葉となっている。それが問題なのです。彼は無意識のうちに、「去年のようなことは起こらないだろうな」と感じ、「負けないようにしたい」と考えている。これでは優勝はおろか、良い流れを呼び寄せることすら難しい。彼はどういう言葉を使えばいいのでしょう。例えばこんな表現が考えられます。

「短いような長いような一年でした。一年ぶりにこのコースに戻ってこられて大変嬉しく思います。このコースは相性も良いし、自分でも大変好きなコースです。自分には合っているんです。今、私の頭の中には良いイメージが広がっています。ギャラリーの皆さんに、成長した石川遼の姿をお見せしたいと思います」

彼は日本ゴルフ界の宝というべき存在です。言葉の重要性に気づいて、大きく羽ばたいてもらいたい。フォーナインはそう願っていました。そして迎えた2009年シーズン。

彼の表情からは少年らしさは消え、アスリートとしての自覚に満ちた顔がありました。

「今年は違う」

皆さん誰もがそう感じられたことでしょう。

マスターズの練習ラウンド後にはCNNのインタビューを受け、「20歳までにマスターズに勝つことが夢と聞いたが、勝てるのか?」と尋ねられ、

「今からできないとは思わない。まだ時間は残されてるし、できると信じて練習します」

彼の言葉にも確実に変化がありました。

そしてサン・クロレラクラシックではバーディーをとっても軽く会釈するだけ。見事な集中を見せ、熱戦を制してシーズン2勝目を挙げたのです。賞金王レースのトップに躍り出た彼は、これからも素晴らしい活躍を見せてくれることでしょう。

イチロー選手だけでなく宮里選手、石川選手に、そして多くの頑張っている人たちに、私たちフォーナインはエールを送ります。

■ 結果を出す16の秘訣

■ 内容紹介

  まえがき

  序章

  WBCは北京オリンピックのリベンジの場ではない

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